クラウドではじめるデータマネジメント
データマネジメント組織の役割と人材アサイン・育成のヒント
データマネジメント組織の役割と人材アサイン・育成のヒント
このコンテンツは、当社で執筆している日経クロステック記事「実践DX、クラウドで始めるデータマネジメント」の「第3回 ビジネス目標を共有、「失敗しない」データマネジメント組織の設計とは」と「第4回 AIの進化が影響を及ぼす、データマネジメントのためのスキルと人材育成」の内容を一部要約しつつ独自コンテンツを加えたものです。日経クロステック記事の全文は上記記事リンクからご覧ください。
目次
この記事は、日本におけるデータマネジメント人材不足の現状と対策(育成)をテーマにしています。データ関連人材、特に「データエンジニア不足」が顕著であり、構造的な需給ギャップが今後も続くことが予想されます。この記事を読むことで、データマネジメント組織における役割の全体像を理解でき、適切なアサインや人材育成のヒントを得ることができます。
データ関連人材は圧倒的に供給不足、今後も「採用難」が続く
近年、データマネジメント人材の不足が顕著になっています。
国内では、過去数年の間に「データに関わる組織」を設立する企業が急増しています。この傾向はまだ始まったばかりなので、今後もデータ関連の人材需要は増加することが予測されています。
下記は、データマネジメント関連職種の1つである「データベースエンジニア」のエンジニア人口を日米比較したものです。他の職種は統計がないためこの職種のみ比較しています。日本のエンジニア人口は当社推計です。
日本とアメリカのデータ関連人材の数には大きな差が見られます。日米では同一定義のデータが存在しないため、直接比較はできませんが、ITエンジニア人口に占めるアメリカのデータベースエンジニアの割合 3.03%に対し、日本では約0.64%(アメリカのデータベースエンジニアに最も近い職種の人口に当社独自の推計を加えた推測値)と、アメリカの”データベースエンジニア” のITエンジニア人口割合は日本の4.7倍にのぼります。国内における供給数不足が相当大きいことがわかります。
データベースエンジニア数とITエンジニア人口内の割合
人数 | 割合 | |
---|---|---|
日本 (当社推計) | 約7,000人 | 0.64% |
アメリカ (米労働省労働統計局) | 144,500人 | 3.03% |
日本ではゼネラリストの育成に重点を置いており、専門家が十分に育っていないこともこのギャップの一因と考えられます。当社がクライアント企業を支援している現場でも、特にデータエンジニアの不足感が強くなっていることを感じます。他のデータマネジメントの関連職種においても同様の傾向と推測されます。
このような構造的な需給ギャップにより、今後もデータマネジメント関連人材不足はしばらく続く可能性が高く、採用力が高い企業を除く多くの企業では、中途採用で必要数を獲得するのは難しいことが予測されます。データ活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)を円滑に進めるには、データマネジメント分野の人材育成や教育強化が急務であることを示唆しています。
データマネジメント組織に必要な役割とは?
データマネジメント組織には、担当する業務に分けて「マネジャー」「データエンジニア/データベースエンジニア」「データスチュワード」「データコンシェルジュ」という役割を置きます。
データマネジメントの職種ごとに必要なコンピテンシーとスキル
役割 | 担当業務概要 | コンピテンシー | スキル、ナレッジ |
---|---|---|---|
データコンシェルジュ | データ活用する担当者に活用対象のデータを助言 | 良好な対人関係の構築力 傾聴力・顧客志向 | ・社内業務の知識 ・データ活用事例、ソリューションの知識 ・データカタログ等IT利用スキル |
データスチュワード | データ品質の保証、データカタログのメタデータ管理を担当 | 良好な対人関係の構築力 計数処理能力 変化適応力 | ・社内業務の知識 ・社内データに精通していること ・データそのものの分析能力 ・データ管理ツール利用スキル |
データエンジニア | データ設計、データ連携処理の実装、運用を担当 | 計数処理能力 変化適応力 | ・社内業務の知識 ・社内データに精通していること ・データモデリングスキル ・データ連携ツール導入、利用スキル ・データ連携処理を実装する言語 |
データベースエンジニア | データ基盤の設計・構築・運用を担当 | 問題解決力 学習能力・情報収集能力 変化適応力 | ・データベース製品知識、構築運用スキル ・OS、ストレージの基礎知識 |
それぞれの役割、必要な経験とスキル、コンピテンシー、および、育成のヒントについて解説します。
役割ごとのスキルとコンピテンシー
データコンシェルジュ
DXプロジェクトにおいて非常に重要な、事業部門との連携の役割を担うのが「データコンシェルジュ」です。データコンシェルジュは、社内のデータに関する案内役や内部コンサルタントとして機能します。これには、どのようなデータが存在し、DXにおいてどのように活用できるかについてのアドバイスが含まれます。一部の役割は、データカタログ(ビジネス用語でデータを登録、検索できるシステム)によって補完されることもありますが、DX初期段階の複雑なデータ活用やデータ基盤の習得には専門的なサポートが不可欠です。データコンシェルジュは、ビジネスとデータ戦略の両方に精通し、DXの進行を加速するためのサポートを提供します。外部からの人材よりも、社内の人材が望ましいです。
データコンシェルジュは「社内コンサルタント」のようなものなので、対人スキルが重要です。データ活用を行う社内の人々のニーズを理解する能力、寄り添う能力、そして良好な人間関係を築く能力が必要です。
データ活用の目的を把握するためには、社内の業務プロセスに関する知識が不可欠です。また、様々なソリューションに関する豊富な知識も有効です。技術的なスキルとしては、データカタログ等のデータ基盤ツールの使用スキルが求められます。
この役割を担うには適性とモチベーションが大切で、IT部門の経験は必ずしも必要ではありません。データ活用に詳しい社員がこの役割を担い、必要なソリューション知識や技術スキルを身に付けることも可能です。ソリューションに関する知識は、データマネジメント関連のコミュニティでの情報収集によって効率的に習得できます。
データスチュワード
データスチュワードはデータの品質保持に注力します。これにはデータ基盤上での不備や欠陥の発見、修正作業、品質低下の原因に対処する活動が含まれます。具体的には、データ入力の自動化やチェックシステムの構築などがあります。また、データカタログに登録されるビジネス用語の収集や管理を行い、事業部門のサポートも担います。データスチュワードは他部署との連携が多いため、組織横断的な業務が多くなりますが、こちらも外部人材ではなく、社内人材が主に担うべきです。
データスチュワードには社内業務とデータへの深い理解が必要です。データの異常値を迅速に識別する「計数処理能力」が重要なコンピテンシーです。
また、データ品質向上には、データ発生源である各事業部門との協力や、データのオーナーである部門とビジネスメタデータを作成・管理する作業が多く、これには「良好な対人関係の構築力」が求められます。
データコンシェルジュ同様、IT部門以外のデータに精通した社員もデータスチュワードとして適任です。データや数字への慣れとIT利用スキルがあれば、必要な技術スキルは習得可能です。
データスチュワードのチームは、新しいツールや方法の採用を検討し、作業プロセスを設計する主担当者と、AIやツールで修正されたデータの正確性をチェックする作業者から成り立ちます。新技術の情報収集や評価に一定の工数を割くことが求められます。作業者は、主担当者が定めたルールや手順に従って、決められた作業を正確に実行することが重要です。
データエンジニア
データエンジニアは、データの設計やデータ連携処理の実装など、データ関連の業務を担当します。デジタル化が進むにつれて、これらの業務量は増加し、その需要も高まっています。
データ関連の作業は手間がかかるため、効率的に業務を遂行するためには、標準化されたデータ設計やデータ連携方法の定義が重要です。これにより、共通化や自動化を図ることができます。データエンジニアには実務経験が必要とされ、外部からベストプラクティスを取り入れることも有効です。しかし、社内でのデータ設計の標準化や統制などの役割は、社員で実行する必要があります。
データエンジニアにも、社内業務とデータへの深い理解が求められます。データスチュワードと比較すると、他部署との関わりは相対的に少なく、技術的なスキルがより多く求められます。特にデータモデリングは専門性が高く、優れたデータ設計にするには関連する業種や業務での豊富な経験が必要です。専門知識がない場合は外部の専門家の指導を受けながら経験を積むことが効果的です。
データベースエンジニア
データベースエンジニアは、インフラエンジニアの中でもデータベースに特化した専門職です。クラウドを使用する場合、製品の基本的な知識(インストールやパラメータ設定など)や基盤運用の経験は以前ほど重要ではありません。
クラウド環境では、構築と運用の多くが自動化され、デフォルト設定での自動運用が可能なケースが増えています。そのため、実装方法を完全に理解していなくても運用可能です。深い製品知識が必要な際は、外部の専門家に依頼することも考えられます。また、運用業務の自動化も進んでおり、データベースエンジニアの内製での必要性は減少しています。外部委託を検討することも合理的です。
特にサーバーレスサービスなど、自動化が進んだクラウドサービスを利用することで、データベースエンジニアの数を削減し、データコンシェルジュやデータスチュワードにリソースを割くことが可能です。
DX初期段階では、データの探索や概念実証(PoC)が重要で、この時期にはデータコンシェルジュの役割が重要になります。一方で、完全なデータの整合性や高品質が求められるのは後期であり、データスチュワードやデータエンジニアの必要性はその後になります。データ活用の進行に合わせて必要な人材を確保することが望ましいです。
データベースエンジニアは、従来のRDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)やデータウェアハウスに加え、データレイク、データカタログ、データ仮想化などの新しい領域にわたる広範なテクニカルスキルが必要です。製品ごとの知識を豊富に持ち、基盤のトラブルシューティングに対応するため「学習能力・情報収集能力」および「問題解決力」が重要です。
RDBMSやデータウェアハウスの基本は書籍やオンライン学習で身に付けることができますが、個別要件に基づく最適化やデータ基盤全体のアーキテクチャ設計には、データ利用者のニーズを理解するための経験が必要です。
新しい技術領域では、整理された情報が少なく、自己学習が必要になることもあります。経験が少ない場合は、技術スキルの習得が迅速な若手が適していることが多いです。
役割を分解して解像度を上げると、どのような社員がフィットしやすいかがより見えやすくなります。既存社員で対応できる役割を見つけるのも有効です。
日経クロステック記事では、外部コミュニティを活用したキャリアアップ等についても記載していますので、興味のある方はぜひご参考ください。
【即戦力】の外部人材活用でアジリティー向上。
時間のかかる専門職育成を補完
職務内容によっては外部人材を活用可能な役割もあり、組織設計するうえでは外部人材の登用も選択肢になります。
外部人材活用の主な目的は、「計画実行の実現性向上」と「業務量変動やノウハウ陳腐化リスクへの対応」です。専門職の育成には時間がかかるため、アジリティーを上げるために外部経験者の力を借りると効果的です。
また、業務量が減少した際の人件費コントロールや技術変化に伴うリスクを考慮し、一部の業務を外部人材に委託することも検討すると良いでしょう。ただし、外部人材のコストは高いため、リスクとコストを考慮して内製化と外部委託を検討し、必要に応じて育成計画を立てることが重要です。
次回は、データ活用の要であり、一番初めに理解しておきたいコンセプト「データレイク」について説明します。