クラウドではじめるデータマネジメント
データ活用の成功を左右するデータマネジメント組織の設計
データ活用の成功を左右するデータマネジメント組織の設計
このコンテンツは、当社で執筆している日経クロステック記事「実践DX、クラウドで始めるデータマネジメント」の「第2回 円滑なDX推進に不可欠なデータマネジメント組織、何を担当?内製すべきか?」「第3回 ビジネス目標を共有、「失敗しない」データマネジメント組織の設計とは」の内容を一部要約しつつ独自コンテンツを加えたものです。日経クロステック記事の全文は上記記事リンクからご覧ください。
目次
この記事では、「データ活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)」の成功を左右するデータマネジメント組織の内製化について、その理由や組織の役割・構成等について解説します。また、実成果を得るためのデータマネジメント組織設計のヒントにも触れています。
データ活用の成果獲得に効果的。
「データマネジメント組織の内製」
デジタルトランスフォーメーション(DX)を円滑に推進するには、企業内に散在するデータを一元化し、使いやすい形に整えることが重要です。このプロセスを実現するための手段が「データマネジメント」や「データマネジメント組織」になります。データマネジメントは組織全体にわたる取り組みであり、部門間の協調や管理を行う専門的な組織を設けることが効果的です。
データマネジメント組織の意義
データ統合はデータ活用の大部分を占める作業で、時間と労力を大きく消費することが一般的です。特に、システム間でデータ設計が異なる場合はこの工数が増加し、統一されている場合は減少します。縦割りの部署ごとにデータを管理すると、業務の重複や非効率が生じ、部署間の連携に時間とコストがかかります。データマネジメント組織の主要な役割の一つは、これらの異なるデータ設計を統一し、分散しているデータの統合作業も行うことです。
さらに、データマネジメント組織はデータの活用基盤の構築、データの収集・保管・共有の仕組みづくりを担当し、これらを管理するための規則やプロセスを定めて、品質とセキュリティを保つことも重要な役割です。
データマネジメントは、一時的なプロジェクトではなく、永続的な組織としての活動が重要です。デジタル化の進展により、社内外で常に新たなデータが生成されるため、一過性の取り組みではデータを統合し続けることは不可能です。
データ設計を統一するための初期コストはかかりますが、それによって後のデータ統合のコストを削減し、データ活用のスピードを上げることができます。デジタル化が進行し、社内業務のシステム化やデータ活用の取り組みが本格化するにつれて、データマネジメントを組織的に実行する効果はさらに大きくなります。
内製で進めるデータマネジメント
データマネジメントを内製化することで、アジリティー(迅速な対応能力)を得ることができます。内製とは、データマネジメントに関する業務、データ自体、およびデータ基盤の自社に合ったやり方やアーキテクチャを独自に構想し、管理および統制できる状態を指します。
内製化が推奨される主な理由は以下の通りです。
データ資産の管理のため
組織全体のデータを俯瞰し、設計から収集、統合、分析利用に至るまでを企画するには、データに対するオーナーシップを持ち、自らの判断で進める必要があります。外部ベンダーからのアドバイスや運用支援は役立ちますが、方針決定やアーキテクチャの設計、管理統制などは自社で内製で行うことが重要です。
変化への迅速な対応のため
データ利用に対するニーズは変わりやすく、外部委託すると契約内容の変更などで時間がかかることがあります。迅速な対応には、内製が適しています。
社内調整の円滑化のため
データ活用を進める際には、データのオーナーである社内の他部署との協調が必要です。これは社外の人材には対応が難しい業務であり、内製で円滑にすることができます。
データマネジメント組織内では「マネジャー」「データエンジニア/データベースエンジニア」「データスチュワード」「データコンシェルジュ」という役割が設定されます。組織立ち上げの初期段階では、これらの役割を兼務してスタートすることも一つの方法です。これらの役割における業務内容、必要なスキルセット、適切な人材の選定については次回詳しく説明します。
データマネジメント組織に求められる成果と責任
データは「21世紀の石油」と称されますが、実際に価値を生むデータは限られており、多くは活用されずコストになるだけです。そのため、全てのデータに対して組織的なデータマネジメントを行う必要はなく、選択と集中が求められます。
データマネジメント組織のマネジャーや主要メンバーは、ビジネスへの理解を深め、DXに適したデータを識別することが重要です。データマネジメントはDX推進の間接的な貢献をし、セキュリティと品質の管理にも注力します。
品質に関しては、DXの進行度に応じて対応を調整します。また、データマネジメントの体系化にはDMBOKというフレームワークがあり、その中心にはデータガバナンスが位置づけられています。
知識領域 | 内容 |
---|---|
データガバナンス | データに関する組織、ルールを決め、データマネジメントが適切に機能するよう管理、統制する |
データモデリングとデザイン | データ基盤に実装する業務データの論理モデル、物理モデルを設計する |
データストレージとオペレーション | データ基盤の設計、実装、運用を行う |
データセキュリティ | セキュリティ要件を満たすよう、データに対するリスク対策を実施する |
データ統合と相互運用性 | システム間で統合されたデータとなるよう連携する方式を設計、実装する |
ドキュメントとコンテンツ | 非構造化データを利活用できるよう管理する |
リファレンスデータと マスターデータ | 用語の定義などを統一された状態とし、マスタデータの品質が損なわれないよう維持・管理する |
データウェアハウスと ビジネスインテリジェンス | 業務ニーズに合わせてデータウェアハウス、ビジネスインテリジェンスのシステムを導入する |
メタデータ | データの定義に関する情報を管理、共有する仕組みを構築し、データの利用やガバナンスに活用できる状態にする |
データクオリティ | データの品質を管理するための方式を設計し、品質の監視、調査、問題改善を行う |
データアーキテクチャ | ビジネス戦略に沿ったあるべきデータのアーキテクチャを設計する |
効率化に不可欠なデータマネジメント組織の調整機能
データマネジメント業務では責任の分界点が曖昧な場合があります。例えば、「名寄せ作業」は各部署のシステム上、またはデータマネジメント組織が管理する統合データ基盤上で行うことが可能です。
縦割り組織では部署間の調整に時間がかかるため、データマネジメント組織設立時から調整機能を用意することが重要です。スタートアップなどビジョンや価値観が共有されている場合は、マネジメント層だけで調整が可能です。一方、より規模が大きい、より複雑な組織などでは、リソース配分や管理は共通の上部組織やトップが担い、組織構造に応じたマネジメントスタイルの設計が必要です。
実成果を上げるデータマネジメント内製組織設計のポイント
DMフレームワークを内製組織の施策策定や評価に活用
データマネジメントの体系的なフレームワークである「DMBOK(Data Management Body of Knowledge)」を用いることで、データマネジメント業務を漏れなく理解し、内製での組織の取り組みを定義するのに役立ちます。また、DMBOKの各領域におけるデータマネジメント業務の成熟度を評価するフレームワークも存在します。
特に知られているのが、アメリカのカーネギーメロン大学CMMI(Capability Maturity Model Integration)研究所によって開発されたDMM(Data Management Maturity:データマネジメント成熟度モデル)です。
データマネジメント業務の体系化に関しては、研究機関やコンサルティング会社がそれぞれ独自に開発したフレームワークが多く存在し、特定の業界標準としてのフレームワークは定まっていません。
DMM(Data Management Maturity)は、これらの中でも頻繁に参照されるフレームワークの一つで、成熟度をレベル1からレベル5まで分類するシステムです。このフレームワークを使用すると、「データガバナンス」や「データモデリングとデザイン」などの領域がどのレベルに位置しているかを明確にすることができます。これにより、データマネジメント組織を内製する際の目標設定や成熟度の向上の指標として利用し、現状からのレベルアップ計画を立てるのに役立ちます。
DX目的と連動したデータマネジメント目標設定で、失敗を回避
DX推進のためのデータマネジメントでは、DXの目的と連動した成熟度の目標を設定することが重要です。データマネジメントは、ビジネスの成果を上げるための手段にすぎません。内製でのデータマネジメントやデータ基盤の導入のみを目標にすると、実際の成果が得られないケースが多く、データ分析基盤やビジネスインテリジェンス(BI)ツールの導入にもかかわらず、データ活用が進まない例が多く発生しています。
例えば、経営層がBIツールでどのデータが役立つかを理解していなければ、そのツールは使われない可能性が高くなります。また、マーケティング、営業、生産管理等でも想定されるデータの利用方法を理解していないと、効果的なデータマネジメントにはなりません。
失敗の一因は組織構造にあり、データマネジメント組織はDXを推進する事業部門とのビジネス目標を共有し、DXのためのデータマネジメント業務に集中できる組織設計が必要です。
データマネジメント組織の類型
内製でのデータマネジメント組織は、DXやIT戦略との整合性、関連性を強く持たせられるように設計します。そのため、データマネジメント組織は以下のような類型が考えられます。
・DX推進、IT戦略を統括する部門内に設置する
・独⽴組織とする
・バーチャル組織
それぞれの内容と内製での取り組み方については日経クロステック記事に記載していますのでご参照ください。
クラウドサービス活用でデータマネジメントの効率化を促進
クラウドサービスの登場以降、事業部門がIT部門を通さずデジタル施策に取り組む例が多くなりました。IT部門の知らないところで新たなデータが生み出されているのです。こうした状況も、「データを内製で組織横断的に管理する」データマネジメント組織が求められる背景にあります。
同時に、クラウドサービスはデータの統合を容易にする効果も生みます。データマネジメント組織のニーズを満たすような、データ管理と統制のためのサービスも登場しており、データマネジメント組織を置いた方がデータマネジメント業務をより効率よく実行できるためです。
内製するにあたっては、データマネジメントに精通した十分な数のエンジニアを採用するのは難しいため、クラウドサービスを活用して労働生産性を高く保てるメリットは大きいといえます。生産性が上がり、やりがいのある業務を担うことが可能になると、エンジニアのモチベーションや定着率にもプラスに働きます。
次回は、データマネジメント組織を内製で実行するために不可欠な「データマネジメント組織の役割と人材アサイン・育成のヒント」について説明します。